澁谷展由,岡田尚人,遠藤元一,惠木大輔,遠藤憲子,谷田哲哉,殿井健幸,増澤雄太,松林司,山本正(2020)『第三者委員会報告書30選』商事法務

 澁谷展由,岡田尚人,遠藤元一,惠木大輔,遠藤憲子,谷田哲哉,殿井健幸,増澤雄太,松林司,山本正(2020)『第三者委員会報告書30選』商事法務を読んだ。会計不正でオリンパス東芝,テクノメディカ,富士フイルムホールディングス,UKCホールディングス,亀田製菓トレイダーズホールディングスエフエム東京,品質偽装で旭化成建材三菱自動車工業全国農業協同組合連合会雪印種苗ツバキ・ナカシマ,ハラスメントでJPホールディングス,労働管理の不備でゼンショー,反社排除不十分で王将フードサービスインサイダー取引三井住友トラスト・ホールディングス,海外贈賄で日本交通技術,コンプライアンス違反でタマホーム,ノバルティスファーマディー・エヌ・エーミクシィヤマトホールディングス九州旅客鉄道レオパレス21スバル興業日産自動車大和ハウス工業コロプラ,パートナーエージェントの合計30社。なお,4,400円。

 平成18年頃,平成14年3月19日の司法制度改革推進計画*1で弁護士の過剰供給が懸念されるなか,一般民事の弁護士が,シティズ判決*2に端を発する過払金返還訴訟でメシの種にありつけた一方,企業法務の弁護士は,企業等で発生する不祥事に食い扶持を求めていた印象がある。企業等が第三者委員会を設置して不祥事の調査を依頼,弁護士を主たる委員とする第三者委員会が調査報告書を公表するという取り扱いは,2010年,日本弁護士連合会が「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を策定したことで社会に定着した。

 ただし,調査報告書のなかには読む人の心を打たないものもある。この一例が,本書である。元々の調査報告書を,案件概要表*3並びに「報告書が認定した事実の概要」,「報告書が認定した発生原因」,「報告書が挙げた再発防止策」及び「本事案から学びうる企業の注意点・対応策」に嵌め込んで,縁由と結果の連鎖を捨象してしまっているため,主張が血の通っていないものとなっていて,実務に応用するキッカケが得難い。また,単純に読みづらい。

 不祥事には,必ず,縁由と結果の連鎖がある。この人がこの時点でこれだけのヒト・モノ・カネ・情報を握っている/握られていると,こういう目的でこういう行動をとるはず,と話が流れていく。この話の流れに沿って,あるはずの資料,ないはずの資料を考えて,調査を進める必要がある。また,調査対象者の置かれている立場を考えないと,真実をキチンと聴取できない。最終的には,調査する人だったはずの弁護士が,バッチをギラギラさせて,第三者委員会の権力を笠に着た八つぁん熊さん属性を持ち,あいつのせいだ・こいつのせいだと火に油を注ぎ,犯人を決めてから事実をあてはめて,「何故,もっと早く言わなかったのか。」とか「こういうことだから不祥事が発生した。」とか責任を追及する人になってしまう。

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*1:法曹人口の拡大:現在の法曹人口が,我が国社会の法的需要に十分に対応することができていない状況にあり,今後の法的需要の増大をも考え併せると,法曹人口の大幅な増加が急務となっているということを踏まえ,司法試験の合格者の増加に直ちに着手することとし,後記の法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら,平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す。

*2:最(二小)判 平成18年1月13日 民集第60巻1号1頁。

*3:対象会社,業界,発覚の端緒,問題行為の類型,報告書,調査スコープの概要,委員の属性,委員以外の委員会の人員,調査期間、主な調査方法,関係する判決・行政処分等。