判例タイムズ編集委員会(2016)『判例タイムズ1426号』判例タイムズ社

 判例タイムズ編集委員会(2016)「①A会社*1代表取締役*2らが連結会計年度2期*3にわたり,連結純資産額を過大計上(1178億円余)した行為について,被告Y1*4,Y2*5,Y3*6の3名らが,同社の事業投資ファンドや簿外ファンドを維持・管理することなどにより幇助し(証券取引法違反金融商品取引法違反),②被告Y1,Y2が知人の会社*7社長*8に対し,①の犯行に関連して設立された新事業3社*9の事業価値や新株式の株価の適正等について欺罔し,新株式払込金名目で3億4855万円を詐取し(詐欺),③被告人3名が,①の犯行の報酬合計22億円余につき,架空の契約書を用意したり送金するなどして,犯罪収益等の取得を仮装して,隠匿した(組織犯罪処罰法違反)事案。有価証券報告書の粉飾は非常に大きく,証券取引市場の公正に対する信頼を大きく揺るがせ,極めて多額の報酬も得ており,態様も悪質であるなどとして,被告人らを懲役4年ないし2年(Y3につき執行猶予4年)及び各罰金並びに被告人らに対し8億8399万4335円の追徴金を科した*10事例。」『判例タイムズ1426号』判例タイムズ社を読んだ。

 耳目を集めたのは①の事件だが,裁判長裁判官芦澤政治*11,裁判官野村充*12,裁判官奥村由佳*13は,求刑被告人Y1につき懲役6年及び罰金1200万円,被告人Y2につき懲役5年及び罰金800万円,被告人Y3につき懲役3年及び罰金600万円,被告人Y1に帰属する金7億2430万9245円の預金債権,被告人Y2に帰属する金4億1149万9592円の預金債権,被告人Y3に帰属する金4985万2469円,2034.27ユーロ,404万8708.69元,1214.72シンガポールドル,5243.14シンガポールドル,89万4582.23シンガポールドル,46万4000シンガポールドルの各預金債権の各没収,被告人3名につき金8億8399万4355円の追徴に対して,被告人Y1及び同Y2については,①の犯行が幇助犯にとどまり,③の犯行はその罪の法定刑が比較的軽いことから,②の犯行の罪(詐欺罪)が処断罪となるところ,その被害額の大きさを中心とする行為責任の重さに,①,③の犯行の犯情を併せて考慮すると,両被告人に前科前歴がないことをしん酌しても,それぞれ主文の刑はやむを得ない,被告人Y3については,①,③の犯行のみの関与であり,いずれについても被告人3名の中では,非難すべき程度は比較的軽いといえること,前科前歴がないことなども考慮して,主文の刑を科した上,懲役刑については刑の執行を猶予するのが相当と判断している。

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*1:オリンパス株式会社。

*2:菊川剛。

*3:平成19年3月期,平成20年3月期。

*4:横尾宣政,弁護人内野経一郎,同内野令四郎,同田渕朋子。

*5:羽田拓,弁護人新谷紀之,同武藤功,同牧野盛匡,同粂井範之。

*6:小野裕史,弁護人中村隆夫,同古澤昌彦。

*7:群栄化学工業株式会社。

*8:有田喜一。

*9:株式会社アルティス,株式会社ヒューマラボ,NEWS CHEF株式会社。

*10:主文は,「被告人Y1を懲役4年及び罰金1000万円に,被告人Y2を懲役3年及び罰金600万円に,被告人Y3を懲役2年及び罰金400万円に処する。未決拘留日数中,被告人Y1に対しては800日を,被告人Y2に対しては800日を,被告人Y3に対しては650日を,それぞれその懲役刑に算入する。被告人3名においてその各罰金を完納することができないときは,金2万円を1日に換算した期間,その被告人を労務場に留置する。被告人Y3に対し,この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。被告人3名から別紙債権目録記載の預金債権を没収する。被告人3名から金8億8399万4335円を追徴する。」。

*11:39期,1956年5月16日生,早稲田大学

*12:54期,1969年10月12日生,京都大学

*13:67期,1989年3月4日生,慶應義塾大学東京大学法科大学院