養老孟司(1986)『形を読む-生物の形態をめぐって』培風館

養老孟司(1986)『形を読む-生物の形態をめぐって』培風館を読んだ。

 情報の伝達という面から、自然科学で起こる最大の課題は、じつは情報の受け手が、馬鹿だったらどうするか、というものである。相手が馬鹿だと、本来伝達可能であるはずの情報が、伝達不能になる。これを、とりあえず「馬鹿の壁」と表現しよう。

 例えば、そうした相手が、科学の結論を信じこんだとき、科学が宗教と同じ機能をはたす、という現象を生じる。だから、科学と宗教は、ときどき仲が悪い。

 結論が導かれる過程を理解せず、一方その結論のみを信ずるという意味で、宗教の結論も、科学の結論も、御託宣にほかならない。科学と宗教は、中身がちがう、と説いてもムダである。ほとんどの人間は、科学者でも宗教家でもない。またそのどちらか一方であれば、他方ではないのが普通である。だから、両者の中身の区別などは、当事者、つまり科学者と宗教家にとってすら、ふつうほとんど、無関係かつ無意味である。